新江ノ島水族館(えのすい)はなぜそんなに人気なの?V字回復を遂げた裏側のすごい話!
夏休みの家族旅行や友達との小旅行、
デートスポットとしても人気なのが水族館。
夏に限らずとも最近では年間を通して訪れるお客さんが急増しています。
全国の水族館の数はなんと100以上!誰しも一度は行ったことがあるかと思います。
実は今、神奈川県藤沢市の「新江ノ島水族館」(通称「えのすい」)がひときわ人気を集め、大注目されています。
近年厳しい経営が続いているテーマパーク業界において、低迷し続けていた来場者数が1年で42万人も増加。
驚きのV字回復で経営再生を遂げています。
しかしなぜ、ここまでのV字回復が実現できたのでしょうか???
低迷から独自の手法で脱却し、今や年間187万人も集める、全国4位の水族館に返り咲いた「えのすい」の秘策をひも解いてみましょう。
参考にするかしないかは、あなた次第。^^
設立から山あり谷あり、減り続けていく来場者
湘南・江の島にある新江ノ島水族館の前身となる江ノ島水族館が、
日本初の近代的な水族館としてオープンしたのは、戦後間もない1954年7月1日。64年もの歴史があります。
日本で初めて、イルカやクジラを飼育する水族館として人気を博しました。
江ノ島水族館は2004年には新江ノ島水族館としてリニューアルオープンし、
初年度の来場者数は180万人と上々の滑り出しを見せたものの、その後は徐々に減少し実は2013年は130万人ほどに低迷してしまいます。
しかし2014年、来場者数が年間172万人を記録し、V字回復を実現したのです。
翌年もその勢いは衰えず、2015年は過去最高の183万人を記録しました。
なぜこんなにも新江ノ島水族館が2014年に業績を回復し、
その後も勢いを継続して過去最高記録を樹立できたのか、その成功戦略を探りたいと思います。
従来のビジネスモデルを続けていては成長も無ければ安定も無し
当時戦前は温度管理技術がなかったので、水族館は温度が一定に保てる季節限定の営業が一般的でしたがこの水族館は違いました。
当時の最新テクノロジーを駆使して、水の循環や水温管理を可能にし、通年での営業を実現。
「世界中の珍しい魚を見たい」というお客さんの要望にも応え、早々に人気を集めていきました。
実は、イルカショーやクラゲ展など、もはや定番となっているこれらのアトラクションは、この旧江ノ島水族館が生みの親なのです。
全てが順調に思われた、人気水族館ですが、この人気は長く続きませんでした。
建物の老朽化が進み、お客さんの足離れが同時に進んでいきます。
これではまずいと、人気の魚や生物を展示したものの大きな効果は得られず、
思い切ってリニューアルし面積を3倍に増やし、展示物も増えたことで一時期は180万人まで来場者数が増えたものの、
10年経たずして、130万人程まで減少してしまいます。
ここで言えるのが、従来のビジネスモデルを続けていては成長も無ければ安定も無し。
来場者数の減少を食い止めることはできなかったのです。
脇役を主役に、「魚を見る」から「環境を楽しむ」に変えた発想の転換
全国の人気水族館には必ず、“主役”がいます。
例えば、沖縄の「美ら海水族館」なら、巨大なジンベイザメやマンタ、三重県の「鳥羽水族館」なら、ジュゴンやマナティーなど、お客さんを惹きつける不偏の魅力、「ウリ」があります。
えのすいは考えました・・・。
・・・何を「ウリ」にするべきか・・・?
そこで出た答えは、「イワシの群れ」でした。
普段食卓にも並ぶ、定番の魚・イワシ。
どちらかと言えば脇役にされがちなイワシを、なぜ、どうウリにしようと考えたのでしょう?
理由は、水族館の前に広がる相模湾は、イワシの漁場として有名だったからです。
そこにスポットを当てました。
当時、全く珍しくもないイワシを主役にする水族館は全国どこにもありませんでしたが、
「よく知っている魚なのに、見ると面白い」「違う動きをするので、見ていて飽きない」
といったポジティブな声がお客さんから得られました。
また見せ方も、数匹を泳がせるのではなく、大水槽で8000匹ものイワシを泳がせることで群れが生まれ、その美しさに魅了される人がジワジワと増加していきました。
最近ではイワシの稚魚であるシラスを世界で初めて展示するなど、イワシの漁場として有名な地元の相模湾にスポットを当てたことで、V字回復を成功させました。
「水族館=日中訪れる場所」という概念を変えて集客UP
新江ノ島水族館(えのすい)は「ニッポンの水族館」をコンセプトに、イルカショーのスタジアムからは相模湾と富士山も望めます。
ショーの内容も独特で、イルカやアシカの気持ちを探る“きずな”、
スタッフも色鮮やかな衣装に身を包み、イルカとのコラボレーションショーを展開する“ドルフェリア”、
魚とダイバーのショー”うおゴコロ”など、ここでしか見られないものを企画しました。
そしてえのすいは、さらなる集客UPに成功します。
建物のリニューアルや目玉となる生物の展示のような新しいものを付け加えていくのではなく、
今あるものを活用しながら集客を伸ばせないか・・・?と。
そう考えたえのすいは、「夜の世界」に着目しました。
水族館の閉館時間は当時夕方17:00頃のところが多く、夜にお客さんを呼び込む工夫は、あまりされていませんでした。
そこで、えのすいは2014年7月に「ナイトアクアリウム (現・ナイトワンダーアクアリウム)」という、夜の水族館でのプロジェクトマッピングを開催。
その結果、物珍しさに加えて仕事終わりの人の来場も増加し、
2014年の夜の来場者は33万人、2015年には40万人を達成しました。夜間の来場者数は、年間来場者数の3割近くを占めるようになりました。
日中訪れるのが定番だった水族館に、「夜の世界」という新しいコンセプトを誕生させたことで、さらにファンを増やし、集客UPを成功させました。
新江ノ島水族館の集客方法は、2014年までは他の水族館と変わらず「新しい・珍しい魚を入れること」でした。
しかし、珍しい生物を展示するために毎年投資しているにも関わらず、客足は遠のきつつあったのです。
お客さまはいくら新しい・珍しい魚が見られたとしても、従来の「水族館」という娯楽施設に、新鮮味を見いだせずにいたからでしょう。
夜に営業している水族館がほとんどなかった時代だったので、この取り組みは入場者数を伸ばす原動力となります
「水族館は昼間に魚を見て楽しむもの」という従来の発想を打ち破ったのです。
さらに「水族館」という施設を活かした新たな試みも実施しています。
例えば、相模湾大水槽前の相模湾ゾーンやクラゲファンタジーホールなどの水槽前などの他、
イルカショースタジアムを結婚式の挙式や二次会パーティー、各種催しができるレンタルスペースとして営業を開始。
単に魚を見るだけではなく「楽しむ場」として水族館の場を提供しました。
新江ノ島水族館は、こうした付加価値を活かしたビジネスモデルで、より多くのお客さまを喜ばせることに注力したのです。
夜の水族館×デジタルアート
閉館も17時→20時まで延長、まったく新しい水族館の楽しみ方を実現しました。
当初、10周年を機に、夜間営業を強化することを思いついたものの、単純に営業時間を延長するのでは面白みに欠けてしまうと考えました。
そこで、当時話題になっていたプロジェクションマッピングで、これまでにない水族館の楽しみ方を表現しました。
2011年夏季より開始した「クラゲファンタジーホール」で光を効果的に使うイベントを成功させた経験から、
新しい展示演出がお客様の興味を刺激するのを学びました。
それをさらに進化させた形がプロジェクションマッピングです「ナイトワンダーアクアリウム」は空前のヒットを記録し、
夜間営業だけで40万人が同館を訪れました。
年間入場者数も2015年に183万人を突破、リニューアルオープン初年度の記録を上回り、まさしくV字回復を成し遂げました。
飼育員を裏方にしないことで楽しさが倍増
えのすいの飼育員は通称「トリーター」と呼ばれています。
これは、生物を飼育してお客さんをもてなす、つまり生物もお客さんも”treat(トリート)”するという意味が込められているそうです。
えのすいは、飼育員を、ただ世話するだけの飼育員としては考えていません。
お客さんを楽しませ、魚の面白さを伝えてくれる「表方」の飼育員になってもらおうと、発声方法や伝え方のレクチャー等の教育に力をいれています。
その結果、お客さんはダイナミックに見せてくれるショーを楽しむことができるようになり、来場者を魅了する水族館へと成長しました。
ここにも、えのすい人気の秘密が隠されていました。
プロデューサーの中村元さん
新江ノ島水族館やサンシャイン水族館をはじめ、日本国内のみならず、海外でも多くの水族館を手掛ける
日本で唯一の水族館プロデューサー、中村元さん。
北海道の山の奥の水族館に年間30万人が押し寄せ、サンシャイン水族館も変貌を遂げました。
今水族館で何かが起こっている!と感じていたといたというその背後には、
中村元さんという、水族館プロデューサーの存在があったからこそです。
本当にやりたかったこと「ニッポンの水族館」
水族館プロデューサーとして独立して初めて展示を監修監督させていただいた水族館であると同時に、
展示に「観覧者起点」の理念や「水塊」の概念を初めて実践した水族館で、感謝の念が尽きません。
「水塊」を導入したのは、展示テーマとした「相模湾」と「クラゲファンタジーホール」の展示においてです。
狙いは、縄文時代から人の暮らしに恵みを与えてきた相模湾を、日本人が海に対する感謝と畏れの気持ちを持てるような水中世界として展示すること。
そして、「全ての命に魂が宿る」と考える日本人の世界観に訴えかけ、クラゲの浮遊感の儚げな美しさを感じさせることでした。
1990年前後より国内で始まった水族館の建設と建て替えラッシュでは、
そのほとんどが一様に、米国のリゾート開発や水族館の展示技法に学び追いつこうとしますが、
まるで明治時代の欧化主義が甦ったかのような様相でした。
そこで、えのすいが相模湾にこだわるのなら、日本の風土文化にもこだわり、日本らしい展示を世界に発信すべきであると考えたのです。
理由の一つには、それが、欧米リゾート的な水族館の続出にそろそろ食傷気味の日本人には、きっと新鮮に映るであろうという狙いです。
本当にやりたかったのは、アニミズムを発信する世界初の展示を実現すること。
水槽の中に世界をつくる「水塊」でならば、生物学以上のもっと大切な何かを発信できるはずだという期待がありました。
大切な何かとは、欧米人が失い、日本人が忘れかけている自然への感謝と畏れの気持ち、つまりアニミズムの世界観です。
そうした思いによって実現した水塊展示とは、水中のそこかしこにナニモノかが潜んでいるような水槽づくり。
岩陰を暗く強調した擬岩や、揺らめく海藻による動く水塊、海が生きているような造波など、
日本人の心に潜む畏怖心を呼び起こすことで、今までの水槽では生まれなかった想像力を活性化させることができるのです。
当初は、アニミズムなんて宗教的なことは自然科学に反していて、
科学系博物館のやるべきことではないなどと言われて理解されなかったですが、
徐々にスタッフの理解が得られ、自然科学系博物館から、
人文科学系博物館あるいは総合博物館への進化というスタンスが生まれ、
キャッチコピーには、私の提案した「ニッポンの水族館」を採用してもらったと言います。
現在の新江ノ島水族館はとりたてて日本のアニミズムを展示しているわけではないですが、
相模湾の文化や暮らしに根ざした展示の数々は、その当時の長く深い議論を根底に持っているからこそのこだわりであると感じます。
一度は経営の危機に瀕した、新江ノ島水族館。えのすい。
地元の相模湾にフォーカスし、脇役をあえて主役にするという着眼点の変換、
これまで提供できなかった「夜の世界」という、新しい魅力を創り出す型破りな発想、
魚、お客さん、飼育員に至るまで、関わる全てのものに配慮しながら、愛される水族館を創り上げていく
という成長するための大事なブレない軸。
えのしまのビジネスモデルには、今すぐ学べるマーケティング要素がいくつも隠されていました。
ひとつのアクションで大きく変われるチャンスがある、ということを教えてくれました。
ありがとうございます。これからもえのすいを応援します!
Hanakoの旅は続きます^^